終着駅/白川道 | デジタル編集者は今日も夜更かし。

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もし雑誌をやっていたら記事にしたかもしれない様々なネタを、ジャンルにこだわらずコラム風に書いてみる。アナログ志向のデジタル編集者は、相も変わらずジタバタと24時間営業中!


終着駅 白川道



男に生まれて良かったと、心底思う。


守るべき者を、守りたいと自然にこみ上げる気持ち。
男には、それがあるからだ。
男として生まれて成長し、やがて自分に男を意識してから、命を賭してまでも守りたいと思う人に出会っているだろうか。
愛する人でも、片想いの相手でも、か弱い子どもでもいい。老いた両親かも知れない。
彼らを守りたい、という湧き出でる気持ちを感じたことがあるだろうか。
男がオトナになるのは、つまり、そんな気持ちを抱いた瞬間のような気がする。
それは、女性が母性に喜びを感じるのと同じような本能なのかも知れない。
守りたい対象があるとき、男は本当の幸せを感じることができる。
ボクは、その喜びを知っている。


白川道の『終着駅』 は、ストイックでハードボイルドな男の恋愛小説だ。


主人公は若い頃を身勝手に生き、かつて、男としてオトナになる前に守るべき恋人を亡くしている。終いにはヤクザの世界に身を置いた主人公は、守るべき者を持つことが叶わなかった。男としての喜びを味わうことなく生きてきた彼が中年を迎えた時、初めて愛することのできる女性に出会う。そして、彼女を守りたいと、心から思うのだ。


結末は、主人公が彼女に出会ったときから、想像がついた。
なにせ、主人公はドンパチが当たり前の世界に身を置いているのだ。死と裏切りが身近にある世界。
最後の数十ページを残すところまで読み進んだとき、
頼む! お願い! 違う結末だっていいじゃないか!とココロのなかで叫んでいた。
主人公だけではなく、ボク自身も彼女を守りたくなっている。読み進めるのが辛い。
それでも、ぐいぐいと小説の世界に引き込まれていく。
結末を読むために、文庫を深夜の風呂に持ち込んで最後を読むことにする。
ゆっくりと味わいながら読むには辛すぎる。胃が痛くなる。
なるべく感情移入をしないようにしながら、猛スピードで活字を読み飛ばす。
それでも、主人公の、あるいは彼女のココロがボクの感情を揺さぶる。
涙が止まらない。
鼻水が流れ、嗚咽を抑えることができない。
この前、声を上げて泣いたのはいつのことだっただろう…


こいつ、馬鹿だ。バカヤローだ。
でもね、でもね、おい、良かったな。
ボクは半身を湯に沈め、鼻水と涙で顔をグチャグチャにしながら、深夜の風呂場でひとり悲しく、満足感に微笑んでいた。

男は、こうでなくっちゃね。


■終着駅/白川道■ (文庫)