いまさらですが、田辺聖子 礼讃 | デジタル編集者は今日も夜更かし。

デジタル編集者は今日も夜更かし。

出版社に在籍していながら、仕事はネット、携帯などデジタル企画のプロデュース。

もし雑誌をやっていたら記事にしたかもしれない様々なネタを、ジャンルにこだわらずコラム風に書いてみる。アナログ志向のデジタル編集者は、相も変わらずジタバタと24時間営業中!

joze

犬童一心監督の『ジョゼと虎と魚たち』(2003年劇場公開)を見た。
CATVのザッピング視聴が常なのでWOWOWのリピート放送なのか他のチャンネルなのか不明なのだが、2回ほど途中から偶然に見て、あらためてWOWOWの番組表で放送予定を確認をして最初から見直した。

イイ!
ひねた女のコ役の池脇千鶴が、セツナイくらいに可愛くて、上手で、むちゃくちゃイイ。
フツーの大学生を演じる妻夫木聡が、ホントに普通っぽくて、キレイで、イイ。
泣きそうで泣けないギリギリの切なさと、リアルに描かれた非現実的な設定もイイ。
へー、こんな良い映画があったんだ…、と正直得した気分だった。

原作は、20年前の田辺聖子の短編小説。
こんな素敵な映画の原作は、果たしてどんなイメージを見せてくれるのか。
田辺聖子を読むのは久しぶりだったのだが、『ジョゼ~』は期待以上に素敵な掌編だった。映画のクリエイティブと、熟練した小説の技。それぞれの表現方法の粋を見ることができたような気がする。

で、田辺聖子さん。
彼女の作品を昔々に読んだ時は、その世界観に共鳴できなくて、その後久しく手にしなかった。短編集『ジョゼと虎と魚たち』は、20年前に出版されているが、だから今まで読むことはなかったのだ。
年齢が“お聖さん”の世界に近づいてきたからだろうか、今回は他の短編もことごとく面白くて、続けて数冊を読んでしまった。

田辺聖子さんはもともと語彙の多いところに、小説のなかでも大阪弁を駆使するモノだから、その表現するニュアンスの幅は倍以上に広がる。言葉の持つ魅力だ。
映画で池脇千鶴が使う大阪弁は、不幸な境遇をオブラートに包んだり、絶望的な状況をユーモラスに語り、見る者に逃げ道を用意してくれたりする。これは、原作の持つ魅力でもある。

『ジョゼ~』も、その次に選んだ短編集『不倫は家庭の常備薬』も恋愛の物語。順風満帆ストレートとは言えないけれど、時代や世代を超えた恋愛の真実が詰まっている。
読み始めた当初は、これって男にとって都合のいい話ばかりじゃないか…、と思ったのだが、考えてみれば、女性も対等の欲望を持ってそれをさらけ出したときは、男にとって都合の良いことは、すなわち女性にとっても都合の良いことなのだ、と気がつく。
もしかして、世の女性たちは、みんなこっそり(?)お聖さんを読んでいたのだろうか。
ボクが手を出さなかっただけで、彼女は人気作家だし、読んでいたんだろうな…。
若い人も、そうでない人も、江國香織や渡辺淳一を恋愛の教科書としているのなら、恐るるに足らぬ。
しかし、パートナーのライブラリーにおせいさんがあったとしたら…、それはちと覚悟が必要ですぞ、ご同輩。

いやはや、しかしおもしろい。
いまボクは、今さらながらに、“不道徳な”田辺聖子に夢中です。


■映画『ジョゼと虎と魚たち』公式ページ

*トレイラー(予告編)も各種見られるがリンク切れも…。くるりの主題歌『ハイウェイ』もいい感じ。

■DVD『ジョゼと虎と魚たち』■

*Amazonでもトレーラーが見られるようになってます。

■『ジョゼと虎と魚たち』/田辺聖子■
*オトナの女性の出会いや別れを中心に。危うくエロチックな表題作は秀逸。

■『不倫は家庭の常備薬』/田辺聖子■

*ホントにそう?そうかもしれない、いやそんなことはないよね、やっぱり…。そんな感じの夫婦の小説集。